G・ヴェルディ作曲「リゴレット」の舞台設定を、日本文化に置き換えた「リゴレット in ジャパン」が上演された。 深見東州のアイディアで、リゴレットは公爵に仕える宮廷道化師から、武家に仕える狂言師〈詈業劣徒(リゴレット)〉という設定におきかえられ、深見東州が演じた。
オペラ『リゴレット in ジャパン』
G・ヴェルディ作曲「リゴレット」全三幕 字幕付き原語上演
出演
詈業劣徒(リゴレット):深見東州
慈流多(ジルダ):大貫裕子
漫兎魔(マントヴァ公爵):大間知覚
須腹付血礼(スパラフチーナ):劉月 明
魔多麗菜(マッダレーナ):イリアナ・ボドナラス
悶諦牢寝(モンテローネ伯爵):栗林義信
知恵腐乱脳(チェプラーノ伯爵):斉木健詞
チェプラーノ伯爵夫人:小林菜美
丸老(マルッロ):松尾健市
棒折左(ボルサ・マッテーオ):田代 誠
助姥汝(ジョヴァンナ):西川裕子
小姓:財津廣根
役人:今井俊輔
ジルダ子役(多摩ファミリーシンガーズ):渡辺桃可
指揮:山上純司
管弦楽:東京ニューフィルハーモニク管弦楽団
合唱:リゴレット in ジャパン合唱団
序曲
劇中に何度も登場する「呪い」のテーマに導かれた、悲劇を暗示した序曲。幼き頃のジルダと亡くなったジルダの母。鳥かごの鳥は、ジルダを象徴する。
この救いようのない結末をなんとか打破できないものか、深見東州が日本文化で咀嚼して、見事「滅びの美学」へと昇華させた、リゴレット史に残る演出である。
第1幕
マントヴァ公爵の宮廷では、舞踏会が行われている。そこには、獅子舞や女性の胸をデフォルメしたおみこしまで登場する。深見東州と演出家のコラボレーションによる、新演出です。
マントヴァ公爵(大間知覚氏)が、生活信条である愛の自由を謳歌する「あれかこれか」を歌う。
マルッロ(松尾健市氏)の「リゴレット(深見東州)が情婦を囲っている」というニュースに、驚くボルサ(田代誠氏)と廷臣たち。
夫の目前でチェプラーノ伯爵夫人を口説くマントヴァ。チェプラーノ伯爵夫人(小林菜美氏)
深見東州のアイディアで、リゴレットは公爵に仕える宮廷道化師から、武家に仕える狂言師という設定に。
プロの能楽師である深見東州の完璧な所作、そして完璧な演技、新しいリゴレット像が生み出される。
「リゴレット」のテーマである“呪い”を歌う悶諦牢寝(モンテローネ)伯爵。
オペラ界の重鎮、栗林義信氏が圧倒的な存在感で演じられた。
モンテローネの呪い……。これ以降、リゴレットの脳裏から離れなくなる。
殺し屋スパラフチーレ(バス)とリゴレット(バリトン)との二重唱。
スパラフチーレはリゴレットを呼び止め、自分は殺し屋と名乗る。
スパラフチーレは、中国国立歌劇舞劇院の団員、劉月明氏。
リゴレットのモノローグ。
「彼は剣で、俺は舌で人を殺める同類だ」(2人は同じ)
リゴレットが自分の身のみじめさを嘆き、廷臣たちを憎む劇的なモノローグ。
深見東州は、完璧なヴェルディバリトンで歌い上げた。
リゴレットとジルダ(大貫裕子氏)の二重唱「娘よ、おまえは私のもの」
リゴレットにとって、唯一の慰めは娘ジルダの成長。情愛に満ちた美しい二重唱である。
リゴレットは、乳母のジョヴァンナ(西川裕子氏)に、娘の純潔を守ってくれと頼む。しかし、そこへ学生に変装したマントヴァ公爵が潜り込む。
二重唱の途中、孤独で醜い自分を愛してくれたと、亡き妻を偲んで歌う時、舞台上には幼い頃のジルダの姿が浮かぶ。その忘れ形見であるジルダは、まさにリゴレットの命であり、全ての生き甲斐なのだった。
神社(原作では教会)で出会った大学生が、実は公爵とは知らぬジルダは、彼に恋心を抱き、愛の二重唱「あなたは心の太陽だ」が歌われる。
ジルダが独り、バルコニーで歌う「慕わしき人の名は」。
大貫氏の歌う華麗なコロラトゥーラの部分では、あまりの美しさに、ため息が出るほどであった。
ジルダをリゴレットの情婦と勘違いした廷臣たちは、復讐のためにリゴレットを騙し、ジルダをさらう。
ジルダをさらうのは、なんと忍者たち。これも深見東州のアイディアで実現したのです。この徹底したこだわりは、日本人の観客はもちろん、海外のオペラ通のお客様まで、驚きと感動でうならせ、楽しませました。
だまされたリゴレットの絶望!!!圧倒的な迫力のうちに、第1幕は閉じる。
第2幕
「ほほにかかる涙が……」ジルダが誘拐されたと知り、彼女の身を心配して歌う。この歌は、公爵が真の愛情を持っているとしか思えない一面を垣間見せる。
左から、ボルサ、チェプラーノ(斉木健詞氏)、マルッロ。ジルダを誘拐したのが、自分の廷臣たちと知り、いつもの好色漢に戻るマントヴァ。
「ラ、ラ、ラ」軽やかではあるが、弦が悲痛に響く前奏にのって、完璧な狂言師の所作でリゴレットが現れる。そして、ジルダの行方を知ろうと、道化を演じて様子を窺う。
リゴレットは「俺の娘だ!! 娘を返せ」と叫び、名アリア「悪魔め、鬼め」を歌う。
リゴレットのアリア「悪魔め、鬼め」。
娘を返せと怒り、呪い、最後は廷臣たちに懇願して歌われる。
強烈な劇的表現力と完璧な発声、美しい声、高いところから低い音まで響く声、そしてスタミナが要求される名アリア。写真からもわかる、その表現力と歌声に、全観客は鳥肌が立ち、真に感動した。
6キロ以上の衣裳をつけ、最後は正座して歌う。この歌い方は、リゴレット史上初めてである。頭についた風車が揺れ、かえって涙を誘った。
奥の部屋より走り出てきたジルダは、すでに、マントヴァの慰み者になったあとだった。
リゴレットは、廷臣たちの退出を懇願する。
2人きりになった父娘。ジルダは公爵との出会いと愛情をリゴレットに打ち明ける「いつも日曜に教会(神社)で」を歌う。
牢獄に連行されるモンテローネが、「公爵には呪いも届かない。悪運の強い奴」と罵って去る。
「いや、復讐は私がしよう」と誓い、「やめて」と懇願するジルダを、憤りながら振り払うリゴレット。
第2幕終幕。
激情的な二重唱で幕となる。
ここでは、普通は2人が退場するだけの場面であるが、深見東州は、この幕 切れで、能の決意を表す型を決め、一枚の絵のような、素晴らしい幕切れとなった。
第3幕
テノールが歌う最も有名な曲のひとつ「女心の歌」。サングラスをしたマントヴァが歌う。
スパラフチーレの宿を訪れたマントヴァは、その妹マッダレーナまで口説こうとする。マッダレーナ(イリアナ・ボドラナス氏)。
リゴレットはジルダに公爵の実像を見せて、諦めさせようとする。
この後、リゴレット、ジルダ、マントヴァ、マッダレーナの4人による、それぞれの心情を歌った四重唱が歌われる。「リゴレットの四重唱」と呼ばれ、重唱の中の最高傑作と言われている作品である。
スパラフチーレにマントヴァ殺しを依頼するリゴレット。
スパラフチーレは、マントヴァの隙を窺う。
マントヴァにほれたマッダレーナは、マントヴァを殺さないでと兄に願う。スパラフチーレは、「真夜中までに宿泊客が来たら身代わりにしよう」と決める。
父の命令に背き、ジルダは公爵の身を心配して舞い戻る。そこで、公爵殺しの話を聞き、自らが身代わりになることを決心する。
ジルダ、マントヴァ、マッダレーナの3人による、緊迫した三重唱が歌われる。
嵐のシーン。このあと、ジルダは2人に殺される。
スパラフチーレから、公爵の死体の入った袋を受け取ったリゴレット。重苦しい独白のあと、復讐の喜びに震える。
しかし、あろうことか、その時マントヴァの「女心の歌」を歌う声が……
愕然としたリゴレットが、袋を開けるとなんと、そこには命より大切な娘ジルダが……。悲痛な叫びに、観客は涙にむせび泣く。
ジルダは、愛する公爵に対する許しを請い、「天国のお母様のそばで祈ります」と歌う。
救いようのない結末も、日本文化で咀嚼すると必ず救いがあるはず……。
深見東州の情熱は、全く新しい結末を生んだ。鳥かごから抜け出して、自由になった小鳥のように。まるで、月の世界に帰っていくような、幻想的なラストシーンが生まれたのである。
「あの呪いだー」。悲痛な叫びで幕が下りる。この瞬間、怒濤のごとく大きな拍手が、客席だけでなく、舞台上からも起こった。
終演後、出演者、スタッフとともに。
「一回で終わるのは本当にもったいない……。」
観客はもちろん、出演者もそう思った新しいリゴレット。
そのリゴレットを、見事に演じ切った深見東州に、出演者からも大きな拍手が送られた。